お店の名前の由来
なんで「たね」なんですか?・・・
御客様からの最も多い質問です。
こういう質問をされることに、とても喜びを感じます。
御客様が「ただのパン屋」という意識よりも、明らかにこの店に対して、
興味を持って下さっているという確信が得られる瞬間だからです。
どこのお店でもそうでしょうけど、やはり「名前」にはウチも相当な思い入れがあります。
ですが、店頭ではパン焼き中だったり、色々と仕事に追われる為に「あらすじ」程度にしか
お伝え出来ずに説明が終わってしまう事がほとんどだったりします。
(あまり長々と語られても、御客様は困ってしまうでしょうし・・・^^;)

まずは「パン屋・たね」の前身、「ラ・フィセル」について説明させて頂きます。
1998年の2月、金沢市玉鉾のテナントで初めての自分の店を立ち上げました。
私と妻の2人だけで開店。アルバイトさんも雇っていませんでした。
開店時のパンの種類はたったの12種類。バゲットも食パンもありませんでした。
自家製酵母のパン、クロワッサン、パン・オ・レ、ベーグル、それぞれ数種類ずつのみの小さな店。
自分が納得出来る仕上がりと、お店のコンセプトに合う商品しか並べたくなかったので、こういう結果に。
はじめの1年はほとんどヒマな日ばかり。パン好きの常連さんと店内のテーブルに腰掛けて、
「ヒマやね〜」と何度言った事でしょう。今は笑い話になりますが、正直、焦りました。
でも、売上の為に納得のいかないパンを焼く気には全然なれませんでした。
それならいっそ、閉店してしまった方がましだと考えていたのです。

そんなある日、ひょんなきっかけで「パン教室」を始める事になりました。
回を重ねるうちに、レパートリーの少ないパン屋ですから、すぐにネタは尽きます。
ある日の教室で「日本の菓子パン」を焼きました。あんぱんやメロンパンなど。
焼き上がって、生徒さん曰く「こいうの店では売らないんですか」と・・・
私は「こういうのウチのキャラじゃないからやりません!」キッパリ答えました。
ところが、その生徒さんは「え〜?なんで?これって、ここの味がしてるよ?それでも駄目なの?」・・・
パン焼きに対して、あまりにも「自分らしさ」にこだわり過ぎていた為に、
「誰の為に」パンを焼くのか、という事を忘れていたのです。
この時から「来ていただける御客様の為に自分ができる事」を真剣に考えるようになりました。
あんぱんもそれまであった抵抗が全く消えて、「自分らしさ」を出せるアイテムの1つとなったのです。
気が付けば、パンの種類は30種程に増えていました。

バゲットはパン職人の皆さんがおっしゃるように「最も作るのが難しいパン」です。
開店以来、何度も練習して「あと1歩」のところで合格点が出せずに毎日が過ぎていました。
その頃、ある住宅メーカー勤務の御客様が「ウチの企画でこちらのパンを使わせて頂きたい。
バゲットを10本、次の日曜の朝、取りに来ます。」と御注文くださいました。
「はい、頑張ります!」と言ったものの、不安の方が大きかったです。
とうとう前日まで納得のいく仕上がりではなかったのですが、当日は「奇跡的に」完璧な仕上がりとなりました。
信じられない感じでした。今でもその時の感動は忘れる事が出来ません。
皮はハリがあって美しい艶とクラックが入り、中身は透明感があり、もっちりとして小麦の甘さが心地よく残ります。
「早く食べて欲しい!」と思いました。お客様も「美味しそうに焼けて、いい匂いがしますね。
これなら、ウチの御客様にも喜んでもらえると思います。」というお言葉が。
この1日で「自信」がつき、それ以後バゲットで失敗する事は殆どなくなりました。
以前にも「クロワッサン」で同じような経験をしたことがありました。
この時、なぜか「誰かの為に一生懸命に焼くと、いいパンが焼けるのかも。」と考えるように。
ある常連さんにこの事を話すと「そんな事考えるのは日本人くらいだよ」と一笑されましたが、
今でもその考えは間違っていないと思っています。冷静に考えてもそうなのですから。
それからは、それぞれのパンを焼いたり成形したりする度に、そのパンを「美味しい」と言って下さる
御客様の顔を思い浮かべるようになりました。その方が、本当に良い焼き上がりとなるのです。

他にもチーズの事や料理の事、コーヒーや紅茶、ワインなど、そしてそれらの中心にパンがいつもあったこと。
それぞれ御客様に教えて頂いたり、導かれたりしながら自分なりに考えるきっかけをいただいて、
力になり、ひとつの「実」を結んだように感じるのです。

そして今、「ラ・フィセル」で収穫出来た「たね」を新たな土地「富樫」に播いて育てている。
まさに、その様な気がするのです。
これから、その「たね」を育てる為に、今まで以上に努力しなくてはならないと思います。
また、御客様の力もお借りしなければならないと思います。お店はスタッフだけでは成り立たないものですから。
美味しいパンを作りたい人と美味しいパンを食べたい人があってこその「パン屋 たね」です。
今後とも、皆様のお力をお借りして、フタッフと御客様で「パン屋 たね」を育てていくことが出来たら、
きっと素晴らしい店に育っていくに違いない、そう確信します。
末永く、お付き合い下さいます様、お願い申し上げます。

2005年 9月 4日
パン屋 たね 店主 藤田賢一

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